陰徳太平記 輝元卿廣嶋ニ於城ヲ移被事 12

〓1 奥草刈繁蘆。匠人投鈎縄審方面勢覆。量高深遠近。
銀城鐵郭巍然トシテ。棟厚大厦。夷庭 〓2 門。

※〓1はu521C(刜)  〓2はu8B59(譙)
環境によって表示できない可能性のある漢字なので、このように表記しました。

訳:
奥草を払い繁蘆を刈り。技師は鈎縄を投げうって方面勢覆うを審《つまびらか》にし、高深遠近を測量した。
(かくして)棟の厚い大きな屋敷の立つ、整地され楼門を備えた銀城鉄郭が巍然と完成したのである。

コメント:
u8B59(譙)は高櫓のこと。なので楼門と訳しました。
後半、普請の後にいきなり作事が完成してるのは、まあ、いいでしょう。
問題は「匠人投鈎縄審方面勢覆。量高深遠近。」なんだこりゃ。書き下し文を逐語訳しましたが、なんだかわかりません。方面勢覆フヲ審ニス?はい?

とにかく測量を頑張ったのはわかるし、枝葉の部分なので、ここが訳せなくても問題はなさそうですが、気にはなります。匠人は大工や職人のこと。高深遠近ヲ量リ…とあるので測量のことでしょうから、匠人は土木技師と読みました。で、測量で鈎縄、使う?聞いたことない。

検地や伊能忠敬の測量を調べても、鈎縄を使った様子は見つかりません。そこをさておくとしても「方面勢覆フヲ」が意味不明。方(その地点)、面(地面)、勢(形状)、覆う…元が漢文にしても不自然な文章。
しかし現代の我々には検索エンジンという強い味方がありました。

検索すると、どうやらコピペ元が北宋時代の随筆『夢渓筆談』だとわかりました。科学や技術に関する記述の多い随筆集です。件の文章は「卷十八 技藝」で見つかりました。
zh.wikisource.org/wiki/%E5%A4%
>審方面勢,覆量高深遠近,算家謂之…
とあります。

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つまり陰徳太平記はコピペを間違って「審方面勢,覆量高深遠近」を「審方面勢覆。量高深遠近」としたために意味が通らなくなったのです。オリジナルは「方面の勢をつまびらかにす。覆量・高深・遠近」とでも読むべき文なのでしょう。

そして、続けて「算家謂」とあるので、元の随筆は測量に関する数学を語ったものと推測されます。
これで「匠人投鈎縄」も、なんとなく読めます。コピペ元が何かわかりませんが、同じく数学に関する書からの引用なら、鈎縄とは「鈎縄規矩」のことでしょう。

鉤縄規矩 - goo辞書
dictionary.goo.ne.jp/word/%E9%
が、陰徳太平記の著者あるいは書写した人間は、コピペの際にこれが四字熟語だと読めなかったと考えられます。「かぎなわ」と読んでしまったために、意味を通すために「投」を足したのです。

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かくして「匠人投鈎縄審方面勢覆」…「匠人がカギ縄を投げうって地形をつまびらかにした」という奇妙な文章になったと思われます。
謎解きできても、だからなに?ってやつですな。スッキリしただけ。
しかし、言われてる通り陰徳太平記は虚飾が多いということは確認できました。

続きは後日。

『近世大名は城下を迷路化なんてしなかった』を書きました。 | ブログ桝席 blog.masuseki.com/?p=13620

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